【怖かったのは間取りのせい?】夕焼けに染まる子供部屋

筆者には、いわゆる”霊感”というものがない。だから、過去に幽霊を見た経験はない。

しかし、とてつもなく気味の悪い思い出がある。「おばけ屋敷」というものは実在するのだと、子供ながらに思い知った出来事。地味な思い出話だが、よければ最後までおつきあいいただければ幸いだ。

仮住まい

30年も前のことだ。当時の我が家は、祖父、両親、そして私たち4人兄妹という7人家族。曽祖父が建てた、築30年ほどの家に住んでいたのだが、地震のダメージと老朽化がひどく、建て替えることになった。

ここで、ひとつの問題に行き当たる。「仮住まい」である。

ハウスメーカーに頼めば、着工から2〜3ヶ月とか、あっという間に完成するイメージだが、一般的な工務店に頼んだこともあり、およそ半年ほどかかった。

この、「家を建て替える間」だけ貸してくれる物件を探すことは、今でもなかなか難しい。「ウィークリー賃貸」といった特殊な物件も当時はなかった(と思う)し、基本的に不動産屋も大家も短期の入居を嫌うのである。渋々許可してくれても、「短期違約金」と銘打って、1年以内の解約については家賃1ヶ月分を違約金として没収するとか、敷金は返さないとか、礼金が通常より必要だとか、とにかく現在よりも不動産業というのは適当で傲慢だった。

さらに我が家は人数が多いため、家財を置けるだけのスペースと部屋数が必要だったし、私を含め3人が小学生だったため、学校区の中で見つけなければならないという制約もあった。この大変な仮住まい探しのため、両親は学校区にある不動産屋をしらみ潰しに回ったようである。

その中でようやく1軒の物件に出会う。

我が家からクルマで5分くらいの場所に位置する一戸建てで、築30年は超えており、当時の我が家と同等だったが、贅沢は言っていられなかった。

間取りは7Kと、とても広い。1階には、続き間の和室が3室と4.5畳ほどの洋室、それと絨毯敷きの広い洋室の計5室。2階には、続き間の和室が2室。水回りは全て1階で、トイレはボットン便所である。

ようやく見つかった仮住まいに、祖父と両親はホッとした顔をしていたし、私たち兄妹は、はじめての引っ越しにちょっとワクワクしていた。小学校まではだいぶ遠くなるが、全然大したことではなかった。

家財という家財を1階の絨毯敷きの洋室に詰め込んで、1階にあった和室のひとつを「居間」として、残りの和室は仏間と祖父の寝室として使った。2階は両親と私たち兄妹の寝室である。

もうひとつ、1階にあった4.5畳の子供部屋だったと思しき洋室は、私たち兄妹のランドセルなど、学校関係の道具を置く場所となった。「子供部屋だったと思しき」と表現しているのは、作りつけの二段ベッドがあったからだ。引っ越しの際、はじめて立ち入ったその部屋は、夕焼けで赤く染まっていた。その赤く染まった様子に、なんだかぞわりと嫌な雰囲気を感じたのは、どうやら私だけではなかったようで、家族の誰も口には出さなかったが、仮住まいの期間中、みんながその部屋には入りたがらなかった。

ほぼ東西にしか窓がないという特殊なつくりだったせいかもしれないが、全体的に、なんとなく暗かったその家の中で、子供部屋の赤さは、やけに際立って見えた。

住み始めてからも、その部屋に入るのはイヤだった。当時、私はそろばん塾に通っていたのだが、夕方、誰もいないその家に帰宅し、ランドセルを置き、塾の手提げ袋を持ち出すという、たったそれだけの時間が本当にイヤだった。夕暮れに赤く染まる部屋の中には、常に誰かの気配があって、作り付けの二段ベッドの上から覗かれているような気がした。私は文字どおり、ランドセルを放り投げ、手提げ袋を引っ掴んで逃げ出すように家を飛び出していた。

薄気味の悪い家

ひとことで言えば、薄気味の悪い家だった。

いかにも古い和風住宅らしいつくりで、家の中心に窓のない和室の続き間があったことや、古くなった床板が黒っぽく変色していたことも影響しているとは思うのだが、とにかく薄暗かった。

わりと広い道路に面しており、交通量もそれなりだし、近くの高校の通学路になっているので、人通りもそれなりにあるのだが、家の中に入ると、途端にシーンとした静けさに包まれてしまうような不思議な空気感もあった。当時で築30年だから、遮音性が高いなんてことは絶対にない。サッシだって、アルミではなく、木製の古いサッシだ。

湿気の酷さも特筆すべき点で、とにかく家中がジメジメしていた。母は、毎朝、床を水拭きするのを日課にしていたが、夕方になってもまだ、雑巾の拭き跡が残っていた。それも毎日。それを気持ち悪がった母は、水拭きをやめてしまった。

それと、トイレにハエが異常発生した。ボットン便所だったからだろうか? それにしたって、定期的に汲み取りには来ていたし、掃除も頻繁にやっていたほうだ。とにかくどこから涌いたのかわからなかったが、1週間に1度は、トイレの中にたくさんのハエが飛び回っていた。

それと、一度だけ、浴室の洗い場にうんこが落ちていたことがあった。換気のために窓を開けていたこともあり、ひょっとしたらネコでも入ってきたのかとも思ったが、人間の子供くらいの量はあったようにも思われ、その時はネコか一番下の妹(当時、4歳)が寝ぼけてそこでしたんじゃないか? という話で終わったのだが、ネコにしては大きいし、妹だとしたら、おしりを拭いた様子もなく、いろいろと不可解なできごとだった。

体調不良

6月に、小学校の運動会があった。

その直前、私は体調不良になってしまった。熱が下がらないのだ。元々、喘息持ちだったし、身体が強かったわけではないが、咳も鼻水も出ず、とにかく熱だけ下がらないというのは、はじめての経験だったと思う。まあ、運動会は好きではなかったし、むしろ休めてラッキーくらいに思っていたのだが、問題はそこではない。

私だけでなく、家族全員が同様の症状になってしまった。それも、ほぼ同時に。誰かが風邪をひいて、それがみんなにうつったとは思えなかった。

で、我が家は小学生3人が全員運動会を欠席するということになった。とはいえ、症状としては熱だけだったので、身体はわりと元気だった。風邪だから寝ていなきゃ、とも思ったが、どうにも退屈で、私は居間でTVを観てのんびり過ごしていた。

すると、上の妹が青い顔をして二階の寝室から降りてきた。

「誰もいないのに障子が開いた・・・」

そんなことを言い出したが、熱もあったし、寝ぼけてでもいたのだろうと、その時は誰も本気にしなかった。それから3日ほどもすると、私たち兄妹は回復したが、祖父はまだ具合が悪そうだった。

しかし不思議だったのは、そんな祖父が、具合が悪いにも関わらず、必ず職場(当時、我が家は自営業で、小さな事務所があった)に来ていたことだった。祖父は何も言わなかったが、どうもあの家に一人でいるのを嫌がっている様子だった。

怖い間取り

夏休みのある日、ついに新居が完成し、我が家は引っ越しをすることになった。ようやく、この気持ち悪い家ともおさらばだと、みんながホッとしているのが感じられた。特に祖父の表情が和らいでいるように見えた。

しかし、最後までその家は気持ちの悪い家だった。みんなで手分けをして家財をまとめている時のことだ。

「えっ・・・」

押し入れの中を整理していた母が変な声を上げた。何事かとみんなが集まると、母が指をさしている。そこには、押し入れに詰め込まれた予備の布団があった。よく見ると、まるでその布団の上に、おねしょでもしたかのように、丸く濡れた跡がある。

それだけではない。

その濡れた布団というのは、3枚ほど積み重ねられた布団の真ん中のもの。つまり、上と下にしまわれていた布団は乾いた状態なのに、真ん中にしまわれた布団だけが、ぐっしょりと濡れていたのである。

これには家族みんながゾッとした。

その布団をどうしたのかはわからないが、1ヶ月ほどかけてゆっくり引っ越そうと思っていた我が家は、急遽スケジュールを繰り上げて、バタバタと引っ越しをしたのである。

そして引っ越し後、実は祖父が、その家の玄関で知らない老婆を見たという話を聞いて、さらにゾッとしたことも付け加えておく。だから家にひとりで居るのがイヤだったのだ。

最後に、その家の間取りを記しておく。と言っても、30年も前の話なので、細かいところは異なる部分もあるだろう。

”怖い家”の間取り

当時はわからなかったが、家相の視点で見てみると、水回りが全て”裏鬼門”にあるという、典型的なヤバい間取りである。

ちなみにこの家は、うちの家族が引っ越した直後、建て替えられて、大家さんの親族が住んでいるようだ。今もまだ存在している。

先述したとおり、窓が東西にしかないこともあって、空気の流れも悪かったはずだ。湿気も溜まるだろう。

別記事で書いたとおり、空気がきちんと流れるように作ることこそが、心地よく暮らすためには必要だ。家相や風水を信じるかどうかといったことは関係ない。しかし、あの時のことを思い出すと、やはり家相というのもあながち無視はできないのではないか? とも思ってしまうのである。

今現在、もしくはこれから家の新築、購入などをお考えの方は、ご注意を。

それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

住宅メーカー勤務。不動産で「絶対に失敗したくない」人に向けた情報を発信/ 所有資格: 宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士・管理業務主任者他
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